Salle d’Aikosoleil

バレエ史についての備忘録 日々の食について

元祖『ロミオとジュリエット』、ラヴロフスキー版☆彡マリンスキー劇場バレエ団公演

プロコフィエフの作曲とラヴロフスキーの振付が同時進行の妙!

 

 これぞ元祖『ロミオとジュリエット』!マリンスキー劇場バレエ団によるラヴロフスキー版を見て、音楽と動きの見事な融合。そして、ストーリーが音楽と動きの融合によって語られる様をまざまざと見せつけられた気がしました。

 シュツットガルト・バレエ団のジョン・クランコ振付の『ロミオとジュリエット』やロイヤル・バレエ団のケネス・マクミラン振付の『ロミオとジュリエット』も何度も見たけれど、やっぱり本家はレオニード・ラヴロフスキー版だな、と思いました。

 クランコが振付する時に、このラヴロフスキー版のガリーナ・ウラーノワ主演の映像を何度も見て研究した、とカルラ・フラッチが話している映像を見た記憶があります。

 

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 手前味噌になりますが、こちらのDVDの解説を担当しております(;'∀')

 

 この元祖『ロミオとジュリエット』の後に、新たな演出、振付で作品に息吹を与えたクランコとマクミランの勇気にも拍手を送りたい。

 でもやっぱり、音楽と振付、台本(この台本にもプロコフィエフは関わっている)が同時進行という創作過程のエネルギーを考えると、このラヴロフスキー版の価値は、マリウス・プティパチャイコフスキーの共同作業による『眠れる森の美女』に匹敵するものでしょう。

 マリンスキー劇場(当時はキーロフ劇場)での初演までには紆余曲折がありましたが、1940年にガリーナ・ウラーノワがジュリエットコンスタンティン・セルゲイエフがロミオを演じ、レーニングラードでの初演が実現したのです。

 プロコフィエフは当初、ラストシーンをハッピーエンドで終わらせたいと考えていたようですが、最終的には原作通りの悲劇的結末となったようです。

(ラヴロフスキー版『ロミオとジュリエット』に関しては、またゆっくりと書きたいです。)

 

 そして、今回の公演でのダンサーたちの好演に、「バレエは演劇で、音楽と動きによって登場人物の感情、そして情景までもが語られる」ということを改めて痛感した一日となりました。

 眼を閉じて、どのシーンを思い出しても色あせず、ストーリーが語られるようなのです。出演者すべての心の一体感、アンサンブルの妙、主役だけでは成立しない舞台進行。スターダンサーが素晴らしいバレエ団はたくさんありますが、この隅々までダンサーが個性的に役柄を生きているって、なかなか出会えないことです。

 マリンスキーの舞台は、何度も見ていますが、一番印象に残っている残念な舞台は、1992年(だと記憶)の『くるみ割り人形』でした。第二幕のお菓子の国の場面で、後ろの方に座っているダンサーたちが数名居眠りをしているとも思えるような、気の抜けた様子で座っていたのです。 

 ちょうどソ連邦が崩壊して、ダンサーたちが目標を見失い、チャンスのあるダンサーは、西側のバレエ団に移籍したりする状況がありました。

 1991年にペルミ国立バレエ団の劇場総裁にインタビューした時にも、「ダンサーたちが目標を見失っている現状は否めない」と仰っていました。

 その後、確か2000年くらいだったでしょうか。セルゲイ・ウィハレが1890年の初演版『眠れる森の美女』を復元し、日本でも上演された時でさえ、ある方から「ロシアのバレエダンサーが今後どのように生きていくか路頭に迷っている」というお話を伺ったことがあります。

 その危機の時代を乗り越えて、今のマリンスキーを見てください。ボリショイ・バレエ団が、いろんなスキャンダルに巻き込まれる中、なんとなくロシア・バレエ界の未来展望が見えにくくなっていた時期です。

 「歴史は力なり」でしょうか。ロシア最古のバレエ団のロシア・バレエの誇りを見せていただいたように感じます。

 そして、きっとボリショイ劇場もひと時の歴史の流れの中で、また火の鳥のように甦る日も遠くないと期待したいと思います。

 

 どんな困難な時代にも、ロシアと言う国は、バレエを支えて人材を育むシステムを守ってきているということです。ワガノワバレエ学校もボリショイバレエ学校もほかの地域のバレエ学校もなくならないでしょう。

 もし、これらの学校が亡くなった時、きっとロシア・バレエの本当の危機の時代が

やってくるのだと思います。でも、きっと大丈夫。歴史と伝統はなくならない。

 

 そして、先日マリンスキーの来日メンバーによる記者会見を見ましたら、彼らがしっかりとその伝統とバレエ芸術の本質を受け継いでいることが確認できました。

  

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 バレエ芸術は総合芸術で、一人のスターダンサーで保てるものではない、ということをダンサーたち自身がしっかりと認識し、それを率いている芸術監督の考え方も明確です。

 そして、そして、そして、この日の公演に、なんとこのバレエ団出身の世界的スターバレリーナのナタリア・マカロワさんが、ご臨席されていたのです!同じ空間と作品をシェアできた興奮とあまりに素晴らしい作品に、久しぶりに感動しすぎてしましました。

 マリンスキー劇場からマカロワさんの75歳のお誕生日プレゼントとのことです。なんと粋な計らいでしょう。 

 

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 マカロワさんが、どんな思いでこの作品をご覧になられたかと想像すると、なんだか胸が熱くなりました。ソ連時代に国を捨て西側に渡り、ソ連からロシアへの転換期を生きたバレリーナの目に、この作品はどのように映ったのでしょうか。

 2015年12月2日 東京文化会館にて