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Melos Dance Experience 第二回公演 Stage 3

Melos Dance Experience 第二回公演Stage3鑑賞記録 

公演詳細はこちらへ↓

https://www.melosdance.com/wp/wp-content/themes/melosdance/pdf/A4_meros_stage3_2019_0726N_ol_low.pdf

 

【プロジェクトコンセプト】

STAGE1~STAGE3へ向け段階的に振付家とダンサーにより様々な可能性を生み出していくクリエイション公演。

STAGE1、STAGE2はEXPERIMENT【実験】公演。

STAGE3はEXPERIENCE【体験】公演。

実験段階を経て、質の高い作品創りを目指します。

STAGE1~STAGE3を通して作品の成長をご鑑賞いただける公演企画です。

 

企画・プロデュース:土井由希子 Wellness Arts Studio

2019年11月11日ソワレ公演  於 川崎市アートセンターアルテリオ小劇場

  

今年5月にStage 1 、8月にStage 2という創作のアップデートのプロセスを観客が体験するという試みの公演であるMelos Dance ExperienceのStage 3を昨夜鑑賞した。 

Stage 3ということで、最終段階を鑑賞した。本来はStage1からの創作プロセスを体験するべき公演なので、そこはご理解いただきたい。

 

基本的に裏方体質でリハーサルや創作現場が好きなので、この公演のコンセプト自体に非常に共感する。また、起用されている振付家の三人が、ほぼ同世代で日本のダンスシーンのプロセスの共有があるのではないかと私の勝手な解釈がある。

 

1作目 西島数博振付『トラフィック

音楽:Norah Jones /Joe Hisaishi 他

 

日本の現代を象徴するかのような作品。

開演前から振付者自身である西島が舞台に登場し、ストレッチをしたり、出演ダンサーがおもむろに客席に登場し、座席に座ったり、お互いがすれ違ったりと、観客も知らず知らずのうちに、作品の世界に巻き込まれてゆく。

 

客席の照明が落ちると、観客は舞台の上の世界に吸い込まれてゆく。

現代を生きる群衆のさまざまな人間模様が、そのタイトル通りトラフィックのように交差、衝突、対峙、静止。そこに不安やもつれ、人間の感情の行き来が描写されていた。おそらく、アニメーションやゲームの世界のイメージに近い。 

ムーブメントの動的な印象よりも中心となる人物の静的な動き、一種のスローモーションに感じるような動きが心に残響する。西島数博が所属していたスターダンサーズバレエ団が、バレエに『ドラゴンクエスト』を取り入れたことも思い出す。

 

 

2作目 笹原進一振付『On the Ground』

音楽:J.S.Bach /F.Couperin他

 

息遣いの聞こえる音がまず耳に届いてきた。

この息遣いがこの作品のテーマだと直感した。おそらく、音楽家中村忠の息遣い。

この作品は、振付家笹原進一の心に残る人々へのオマージュだと感じた。

 

男性2人と女性1人がネオ・クラシックのスタイルで繰り広げる世界。

振付はシンプルで奇をてらうような技術はまったくない。形式にとらわれないバレエの言葉でやわらかにつづられ、何かが満ちてゆく感覚を覚えた。

このプロジェクトのプロデューサーで振付家笹原進一の公私ともにパートナーでもある土井由希子、元新国立劇場で活躍し、今はロサンゼルスバレエに在籍する八幡顕光、そして谷桃子バレエ団のプリシパル三木雄馬。それぞれのダンサーの経験値が化学反応を起こすさまを見る。

 

男性二人の間の友情が通奏低音のように響く。地球の鼓動のように。そこに透明感のある女性のムーブメントが二人の友情を象徴するかのように絡み合う。女性はあくまでも、女性という存在よりはもっと象徴的な意味を持つと私には感じられた。

 

そして、なぜか八幡顕光というダンサーの中に小牧バレエ団(現国際バレエアカデミア)の創始者小牧正英の面影を感じたのは気のせいだろうか。振付家笹原進一がバレエを志したのが小牧バレエ団だったから、勝手な想像をしてしまった。

 

3作目 中村恩恵振付『A Pilgrimage』

音楽:「Ryuichi Sakamoto Selections 」より 他

 

キーワードは「巡礼」~タイトルそのもの。やはり、振付家中村恩恵という人が歩んできた舞踊人生をビジュアル化したように感じた。ヨーロッパの薫り。舞台上に並べられた椅子。8人の女性ダンサー。独特な手の所作。シンプルに歩く、立つ、座るというムーブメントがこの世界の中心だと感じた。

 

さまざまなジャンルのアーティストとのコラボレーションを経験している中村恩恵。やはり、彼女のルーツは、キリアンなのかなと。照明、衣装、装置、動きのバランスの妙。そして、この実験的な作品は、彼女自身の「いま」を思うがままに表現しているように感じた。

 

【総論として】

日本の洋舞がこれからどう展開するか。クラシック、モダン、コンテンポラリーの世界が、もう少しつながって行ければと感じるこの頃。その中で、このようなプロジェクトを企画し、実行し続けることは重責であると想像します。

日本の未来の舞踊シーンのためにも継続してもらいたい企画の一つ。「壁のない世界」でそれぞれの舞踊分野のアーティスト同士が尊重し合える世界を開いてほしいと期待して。