Salle d’Aikosoleil

バレエ史についての備忘録 日々の食について

新春恒例ミハイロフスキーバレエ団公演『ローレンシア(ラウレンシア)』鑑賞♬

ロシア版『水戸黄門』か?はたまた、女性版『スパルタクス』か?

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 昨年に引き続き、2016年もありがたいことに、サンクトペテルブルグにあるミハイロフスキーバレエ団の公演で幕を開けることができました!友人に券を譲っていただいたおかげで、このような良いお席での鑑賞。やはり、席によっても見ごたえが違いますね(*^▽^*)

 さて、今回拝見できた作品は、1939年、ソ連時代に作られた「コレオドラマ(舞踊劇)」という形式の芝居仕立てのバレエです。

 

 招へい元である光藍社の提供によるあらすじはこちらです↓

 

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 また、公式サイトには、ソ連、ロシアバレエ史の研究者であられる村山久美子さんが解説を書かれているので、そちらもどうぞご覧ください。

 

ミハイロフスキー劇場バレエ2016(旧レニングラード国立バレエ) 光藍社(こうらんしゃ)

 

 このバレエの初演は、1939年3月22日で、当時レニングラード(現サンクトペテルブルグ)のキーロフ劇場でのこと。振付は、キーロフ・バレエ団のソリストでもあったヴァフタング・チャブキアーニで、音楽はA.クレイン、台本がE.マンデルベルグ(劇作家ロペ・デ・ヴェガの原作に基ずく)。

 チャブキアーニは、グルジア出身で、ソ連的英雄像の象徴のような男性舞踊手だった。初演時、自ら主役のフロンドーソも演じ、タイトルロールのローレンシア(ラウレンシア)役は、キーロフバレエ団を代表するバレリーナ、ナタリア・ドゥジンスカヤだった。のちに、ボリショイ劇場プリセツカヤが踊ったものが有名です。

 まずは、チャブキアーニのフロンドーソをどうぞ!

 

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 それからプリセツカヤのローレンシア(ラウレンシア)☆彡

 

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 物語の主題は、スペインのカスティーリャのある村での農民蜂起で、理不尽な領主(この公演では騎士団長)に対し、村の住人であるローレンシア(ラウレンシア)とその婚約者フロンドーソが農民たちを指揮して、征伐するというもの。物語の展開としては、さしずめソ連版『水戸黄門』のような印象で、悪代官が権力を利用し、お気に入りの娘を自分のものにしようとしたり、横暴な行為に対して、ローレンシアとその婚約者フロンドーソ(水戸黄門のような存在ではないけれど)が、その悪事を裁くというもの。

 第三幕では、緞帳に映像で、ローレンシア(ラウレンシア)たちが領主の城に攻め込むシーンが映し出され革命の雰囲気の臨場感を演出していた。

 民衆を先導するローレンシア(ラウレンシア)は、まるで、ドラクロワの絵に描かれた『民衆を導く自由の女神』。松明を片手に持って、民衆を指揮する勇敢で、りりしく、逞しい姿。音楽の効果も相まって、まるでもう一つのソ連の傑作『スパルタクス』の女性版という印象でもあった。

 今回タイトルロールを演じたイリーナ・ペレン。去年の『白鳥の湖』でも彼女を見たし、彼女のオーロラ姫も見たことがあるが、このローレンシア(ラウレンシア)役が、私の中では、彼女の表現力を最大限に楽しめたものだった。

 やはり、現代女性は強いのか。いや、そもそも女性の本性にある逞しさ、りりしさ、力強さは時空を超えて普遍的なのかもしれない。

 そして、婚約者役のイワン・ワシーリエフ。噂にはかねがね聞いていたが、初の舞台での鑑賞だった。身体全体を使っての表現は、まるで飛び出す絵本のような迫力で、圧倒された。チャブキアーニ的な筋肉質な男性舞踊手で、ジャンプや回転も力強い。このフロンドーソ役としては適役だった。

 ただ、ちょっと気になったのが腰回り、股関節付近の筋肉の塊。この筋肉のコンディションでこのまま、この力技を見せ続けていたら、身体を壊すのではないかしら、などと余計な心配をしてしまいました(;'∀')

 実は、私がこのバレエ団で一番注目しているのが群舞!これは、芸術監督の手腕なのかもしれないけれど、とにかくキャラクターダンス、いわゆる民族舞踊のシーンでの、ダンサーたち一人一人の煌めきがまぶしい。

 舞台のすみずみまで、一人一人のダンサーがキラキラと音楽を紡ぐように踊るさまは、見てて本当にすがすがしい。これぞ、ロシアバレエの底力であり醍醐味!

 この作品は、日本であまり上演されることがないのは残念。内容的には深くないと言えば深くないのですが、ダンサー一人一人の能力が高くないと表現できない作品の一つと言えるでしょう。

 

注:このバレエの『ローレンシア』というタイトル名ですが、私の認識では『ラウレンシア』という読み方なのですが、ロシア語の発音ではどちらが正しいのかわからないので、両方表記しました。読みずらくてごめんなさい。